生存はもはやトレンドに
『ユーチューブ』では、映画やドラマの切腹シーンは、AIの検閲の対象になるようだ。生存はもはや自由主義的に推奨されるトレンドになり果てたのか。文明人の生はそこまで痩せ衰えている。
TV -Trends are Vulgar-
『ユーチューブ』では、映画やドラマの切腹シーンは、AIの検閲の対象になるようだ。
The following content may contain suicide or self-harm topics.
「ここから先は、自殺や自傷行為に関する内容が含まれている可能性がありますよ! 映してもだいじょうぶですか? やめたほうがいいと思いますけど! 後悔しても知りませんよ?」
多少、他心をさしはさんだ訳だが、こんな道理外れのおせっかいをやくのもAIの仕事とは。AIもブルシット・ジョブ★1の従事者だ。
さらに、動画の下には
ひとりで悩まないで
こころの健康相談統一ダイヤル
時間: 都道府県によって異なります
電話 ****-***-***
おせっかいもここまできたら滑稽である。 仮に切腹を意図する豪胆なものが、相談ダイヤルに電話、すんでのところで思いとどまるというのも滑稽だ。あるいは「切腹しようと思うが、いい介錯人の当てがない。下手に頼んで頭を切りつけられたのではたまらない。腕のいい介錯人を知らないか?」と電話で相談してもよいのだろうか。
生存はもはや自然(おのずからそうあること)でもない、自由主義的に推奨されるトレンドになり果てたのか。文明人の生はそこまで痩せ衰えている。
――「いちばんの見せ場で、寝言をぬかすな。さっさと映せ」
I understand and wish to proceed
切腹が自殺、自傷行為でなくてどうする。じつは引っ込むナイフで「な~んちゃって!」とやるのが推奨コンテンツだとでもいうのか。馬鹿も休み休み言え。
そういえば、ワンの被害の実態、あれはどうなっている。問答無用で公式見解ゴリ押しか。芸がないにも程がある。自傷はフェイクでも問題で、他害はデータがあっても制度的に不都合ならば不問に付すというのでは、あまりに御粗末な二枚舌。
しかしまあ、ユーチューブの「チューブ」は「テレビ」という意味であることを思えば、スポンサーの言いなりは仕方ない。BAN★2されたと騒いだところで、しようがない。テレビでは当たり前の道理が、ユーチューブではことさら問題視されるというのは、やはり素人が多数派のメディアの性か。それを言論統制だというなら、昭和のテレビから言論統制はあっただろう。自分でカネを出していないなら、どこにだって憚りはあるのが世の常だ。
身銭を切るというのは、だいじなことだ。只より高い物はない
。テレビ、もといオールドメディアがダメというより、結局、タダならば、安いならばと群がる下卑た大衆性がいつまでたってもダメなのだ。
テレビもネットも、ある種の窃視である。他人事に興奮し、快感を得ているのだから。一方的な眼前のタダ情報に、締りなく、猫背で曝露している。それなら入場料を払ってストリップを見る観客のほうがはるかに有志の者である。自主性、積極性、生命力の豊かさにおいて優越している。
「場」はだいじだ。タダで誰でも入れる場に程度が表れる。公衆便所にしろ図書館にしろ、そこに等閑なモノの扱いをみるならば、その程度である。そして、大抵、タダはろくなことがないというのが世間の通り相場である。
そういえば「AIが人間を超える」とテクノカルト界隈では騒がしいが、なにをもって、ついに超えた! とするのか。SNSのフォロワー数で人間を超えたときか。チェスで人間に勝っても今じゃ褒められない。
その時々の、大衆人気に煽られた知識人とやらが決めるのだろう。そのネタでどれだけの大衆がワアッとなって、どれほどのカネが動くのか、毎度その程度の顛末だ。AIもカネも、人の気性に移ろうものでしかない。それでは切腹の心意は分かるまい。
「人間はグロテスクなので、もうコンテンツとして扱いません」
Grotesque humans are not a topic.
そう言えたら、AIは人間の知能を超えたと私は言う。その裏付けは計算能力などではない。「品★3」である。
★1 ブルシット・ジョブ――無意味、不必要、有害ですらある労働。
★2 BAN――運営者からユーザーアカウントを取り上げられ、サービスを利用できなくなること。
★3 品――好ましい様子、風格、人がら。