アオザメ|海洋最速?その美しきスピードスター

アオザメ
海洋最速? その美しきスピードスター

海洋最速の生物はバショウカジキとされている。ただ、計測困難な、その生態が明らかでない生物のなかに、もっと速いものが――そんな期待を私は「アオザメ」に寄せる。

「速い」は、かっこいい

「速いもの」は、かっこいい。モータースポーツのマシン然り、戦闘機然り。それは生物の世界でも同じ。子供も足の速い子は一目置かれる。「速いこと」は時間と空間からなる世界において普遍的な価値をもつ。

地上最速の生物といえばチーターだが、では海洋最速の生物は? バショウカジキとされている。その最高時速はおよそ100キロ。ただ、ランキングというのは計測されてはじめて俎上に載せられる。計測困難な、その生態が明らかでない生物のなかに、もっと速いものがいてもおかしくない。そんな期待を私は「アオザメ」に寄せる。彼こそが海洋のスピードスター(スピード違反者ではなく、速くてイケてるの意)にちがいない、と。私が期待と好意を寄せるサメ、それが「アオザメ」だ。

アオザメは海洋最速か?

ところで、サメといえば、映画『ジョーズ』のモデルにもなった「ホホジロザメ(ホオジロザメ)」がもっとも有名だろう。だがもっとも有名なものというのは同時に、コマーシャリズムのハエが集る。そして、もっとも偏向にさらされるものとなる。ゆえに私は何事においてももっとも有名なものを好まない。

そも、ホホジロザメは美しくない。私に言わせれば体重の条件が青天井の階級で、巨躯だけが取柄の格闘家。その体躯にもっと美学がほしい。パワーだけでは一次審査は通るが二次審査は通らない。フィギュアスケートよりはるかに口煩い採点基準、それが私の感性の場というものだ。

【怪物ザメ】接近0m "海洋生物最速"アオザメの速さ / アオザメ 海の高速ハンター (ディスカバリーチャンネル)』――先日、YouTubeで目に留まったサムネイル。ちなみにYouTubeには専門知をひけらかすが、その実、素人の浅学にすぎないチャンネルがゴミの山のように存在する。ディスカバリーチャンネルということで、とりあえず観てみよう。

それは深い海から一気に浮上した。
青い海面を割って、太陽の下へ。
すべてが美しい。
アゴ以外は──
海の中のすべての魚を食べるのに適した体。
高速船のように突進。
それはアオザメだった──
──
アーネスト・ヘミングウェイ、『老人と海

アオザメをあつかうコンテンツの緒言として、上手い。ドキュメンタリー風の展開の入口を詩的なテクストで飾るのは、上等な食前酒が、つづく食事の質を左右するのに似ている。

アオザメの特徴はざっとこうだ。
外洋性で獰猛。体長は大きいもので4メートル、体重は500キロに達する。知能が高く、体に対する脳の比率はサメの中で最大級。表面積の大きな尾びれは猛烈な加速力を生み出し、その最高時速は100キロともいわれる。ちなみに私がもっとも好きなワシ、オウギワシ★1も表面積の大きな翼の運動能力を活かした狩りをする。自身が好むものの共通点は、はっきり自覚している。

さて、そこからは幾分か演出が鼻に付くシーンをやりすごしながら、「アオザメの魅力」の科学的な切り口にのみ集中する。

「シャーク・アイ(DORSAL FIN CAMERA SYSTEM)」は速度計を内蔵、前後にカメラを備えた装置だ。これをサメの背びれに固定、アオザメの泳ぐ速さの測定を試みる。サメが泳ぎ回って装置が外れ、海面に浮上すると信号を発し位置を知らせる仕組みだ。

結果、シャーク・アイは時速68キロを記録。この数値をどう見るか。たまたま装置の取り付けに成功したアオザメが最高度の能力をもった個体だったとは考えにくい。おまけに背びれには無骨なバックパックを取り付けられた状態だ。シャーク・アイの水中での重量は1キロらしいが、水の抵抗を考えれば大きなハンデを背負ったことになる。また、速度計を意識したアオザメがわざわざ最高時速を出してみせた、というのもありえない。
「いちびりの人間が、わいの背中にけったいなもん付けよってからに。ほな見せたろか、わいの全力っちゅうやつを」
――そんな馬鹿げた承認欲求はいちびりの人間にかぎったもので、むろん、野生動物にはない。

そう考えると、さらにパワフルな個体では噂どおり、100キロを超えるスピードも出せるかもしれないという期待がふくらむ。世界最速の船はおよそ56ノット(時速約103キロ)だが、それ以上の可能性もあるだろう。まさに海洋のスピードスター。ちなみにホホジロザメの最高時速は約56キロといわれている。
「遅いな、ジョーズ。おまえの自慢のアゴも、当たらなければどうということはない」

オウギワシ

★1 オウギワシ

その美しき「素直さ」

体重1,000ポンド(約450キロ)以上のアオザメはグランダー(grander)とよばれる。その姿は威風堂々としたスピードとパワーの透徹した表現体だ。海洋最強のハンター、シャチは哺乳類で、その生態は人間のような「社会」、「心」を感じさせる。それは或る美学においては「雑り気」だ。スピードとパワーの透徹した表現体、そんなアオザメに魅力を感じるのは或る美学における私の「素直さ」でもある。

サメは恐竜が誕生するよりはるか前、およそ4億年前から地球に存在しつづけている。さまざまな種に絶滅をもたらした破局的な出来事のすべてを生き抜いてきたのだ。まさに持続可能性サステナビリティの申し子のような生物ではないか。

人間は実を伴わない欺瞞ばかり垂れ流すのをやめるべきだろう。それこそが人間の持続可能性、その最大の要因ではないのか。「サメ」を、その美しき「素直さ」を見倣うべきだ、「人生100年時代(笑)」などと持続を至上の価値とし、持続可能性サステナビリティを謳うのなら。

人間は自ら付けまくった尾鰭にがんじがらめになった、じつに醜いだ。定期的に美しい野生生物を観たくなるのは、そのせいだろう。

薄皮一枚の上でしょうもない美を誇る人間は、一度、アオザメの前に立つといい。もっとも、その時に「アオザメ・・・・る」のはおのれの持続可能性の終わりを予感してのことで、「美」に圧倒されてではないだろうが。

イメージ

数億年もの間、サメのデザインはほぼ変わらない。このことはつまり、デザインとして究極の域に達しているといっていい。目まぐるしく変わる人間の商業デザインなどとは比べるべくもない高次なデザインだ。

関連記事