相性と戦術

相性と戦術

時として、努力や才能、実績よりも強力にはたらくもの「相性」。じつにとらえどころのない暗在系の理に、私たちは往々にして振りまわされる。人力のおよばぬ自然の数にどう臨むか。その要諦は「直感」にある。直感の見きわめによって「相生(正)」ならば前進、「相剋(負)」ならば後退。まかりまちがっても「相性」占いなどで決めてしまわぬように。

理不尽の裏に相性という理あり

あふれんばかりの才をもつ者が、尻馬に乗るしか能のない薄志弱行の輩の部下に甘んずる。 努力の度合において他を圧倒する者が、もっとも怠惰な者に得分のすべてを奪われる。性格のたちのわるさに愛想も小想も尽き果てて別れた恋人を、好きこのんで選ぶ者がいる。 どれも日常茶飯事である。

これら理不尽とみえる事実の背景にある理、それが「相性」だろう。この暗在系の理に思い馳せずして、人生は穏やかにはいかない。人知をこえた奇異な力、人力のおよばぬ自然の数を前に、「相性占い」の一喜一憂にとどまる気持ちもわからないではない。しかし、相性にたいする感覚を知識として実践に活かす、そのほうが人生に裨益するところ大である。

イメージ

「相生(正)」と「相剋(負)」

人間の活動は常に「価値」をともなう。価値の有無、高低に努力や才能、実績が物を言うこともあるが、まったく関係しないこともある。その場合、原因は「相性」である可能性を疑うべし。原因がどうやら相性にあるらしい、と直感が告げるのなら、努力や才能でもって挑む正攻法はとらないほうがいい。

具体例を挙げてみよう。私が仕事で制作したものにたいし、ある人はたいそう感激して「これがこの値段でいいのか! 倍の値でもいい」という。そんなとき、私は良い仕事をした、と価値を感じる。売り手よし、買い手よし、「相生★1(正)」の仕事である。そして、この手の幕引きは得てして良縁を運んでくる。

これとは反対に、同じものにたいし、執拗に値切ってくる者がいる。品の内容になど端から興味がなく、買い叩くだけの俗物だ。この場合、努力や才能、実績などのパラメーターは無効である。かかわるべき仕事ではなかったと後悔する「相剋★2(負)」の仕事だ――学びという「正」の欠片はあるが――。

まったく同じものを起点として、こうも結果が変わるのだから、おもしろいといえば、おもしろい。しかし、おもしろがってばかりもいられない。見きわめを誤り「相剋」に深入りすると、最悪の事態に発展しないともかぎらない。

五行

★1 相生――とは「五行思想」の「木・火・土・金・水」5つの元素の相関関係において互いを生かし合う関係のこと(青い矢印)。いわゆる「win-win」の関係である。「木」が燃えて「火」が生じ→「火」が燃え尽きて「土」を生じ→「土」から鉱物「金」が生じ→「金」は(諸説あり)「水」を生じ→「水」から植物「木」が生ずる。
★2 相剋――とは相生の反対の関係であり(赤い矢印)、いわゆる「ネガティブ」な関係である。「水」は→「火」を消し、「火」は→「金」を溶かし、「金(刃物)」は→「木」を切り、「木」は→「土」の上に立ち、「土」は→「水」の流れをせき止める。

相性を感知する

「(相性)占い」なるものにたいしては、十目の見るところなんとやら、である。管見によれば、私の周囲で占いの判定どおりの結果になった人物はいない。場を盛り上げるアトラクションとしてはおもしろい。しかし、その判定を鵜呑みにして重要な決断をするのはいかがなものか。

思うに、相性にはかならず「感情」が反応する。それゆえ、感情の感知が相性を見きわめるうえで重要になる。ここでいう感情の感知とは、いわゆる「直感」だ。直感は時間的、空間的、心理的なプロセスを超圧縮したメッセージのようなもの。経験上、干支や生年月日より、直感からの推理のほうがはるかにたしかである。

少々まわりくどくなったので、具体例を挙げよう。職場で、ある女性がどれほど成績優秀であったとしても、上司から認められない相性(相剋)がある。その女性とおなじポストにいる同僚の女性が、上司とねんごろな関係にある場合だ。そんな居心地のわるい場に生起する感情の位相を想像してほしい。その印象を時間的、空間的に敷衍すれば「不毛の地だ」と「直感」するはずだ。とっとと場を変えたほうがいい。

直感は暗在系の使者

「直感は暗在系の使者である」というのが私の推理である。感情的なフィーリングの良し悪しは、相性においては奇智ととらえてよい。ハーバード大学のジェラルド・ザルトマン教授によれば「人間が自分で認識できるのは意識の5%にすぎず、95%は自分では認識できない」という。95%を暗在系とするなら、そこから5%の明在系へのメッセンジャー、それが直感ではないか。直感はいいかげんなものなどではない。

そうと仮定すれば、努力や才能、実績をふるう前にすべきこと、それは直感による人、時、所の見きわめである。相生(正)のフィーリングなら、とりあえず努力や才能の種を蒔いてみよう。かならず花が咲くとはかぎらないが、相剋(負)のアスファルトに蒔く――というより捨てる――よりはるかに希望も可能性もある。

イメージ

クジラ(感情)は深海の氷山(暗在系)からのメッセンジャーかもしれない

関連記事