「脳」にしっくり合う
「マインドマップ」とは
メモやノートに書き込む「リスト形式」。それは四角い紙面に合わせた形式だ。ゆえにリストは全体像が四角く仕上がる。しかし、これは「脳」には合わない。理由は簡単。紙面のための形式だから。画家のように、紙面に美しく記録を残したいのであれば、リスト形式はおすすめだ。そうではなく、「脳」に入って、さらに活用できてなんぼだというのであれば、すぐにでも「マインドマップ」に変えるべきだ。
ありきたりなメモやノートは役に立たない
私は学生のころからノートをとるのが億劫だった。なにしろ、役に立ったためしがない。よくできたノートを高値で買い取ってくれるクラスメートでもいれば、熱意もわいてこよう。しかし、カネにもならない、テストの結果にもさして関係しないとなれば、間尺に合わないことだと小学生でも悟る。
社会に出れば、さらに理不尽な行為となる。業務をはやく覚えるために、メモなりノートなりをとれ、と先輩社員がいう――あげく、それを後で見せるよう言われることもある――。ペンを走らせることに気が急いて話を聞きそびれ、そのせいでミスをし、とがめられる。まさに盲目的なメモ、ノート崇拝だが、その信念はおそらく、学生の時分に刷込まれた教義である。
私の経験では、なにかをはやく覚えなければならないとき、要領を教わるときは、メモやノートは同時進行させないほうがいい。その教示にひたすら集中すること。相手をよく見て、文脈を意識しながら、頭に録画するように光景まるごと入れてしまうことだ。
むろん、そのままでは泡沫の記憶、翌日にはごっそり消えてなくなる。一時記憶をきちんと整理する必要がある。メモ、ノートの出番だ。だが、記憶をかたちにするのに「リスト形式」を使ってしまっては、機械的作業に終わる可能性大だ。「頭に入って、さらに活用できてなんぼ」だと考えるなら「マインドマップ」形式を使うといい。その理由は「脳の機序」にある。
ノルマと化したノートは、もはや写経。ひらめきや創造性は期待できない。
思考する脳の機序
「相手をその気にさせたければ、まず相手のことを知るべし」とは道理である。「脳をその気――生きいきと働く状態――にさせたければ、まず脳のことを知るべし」だろう。マインドマップをはじめるにあたって、まずはおのれの脳についての基本的な知識を得よう。
人間の脳には、およそ1000億ともいわれるニューロン(神経細胞)がある。そして、それぞれが1のあとにゼロが28個つく数の連結の可能性を秘めている。要するに「無限」とよんでさしつかえない可能性を、人は生まれながらにもっている。インテル入ってる
どころではない。
そんな広大無辺の可能性を秘めた脳の働き方は「放射型」である。これをそのまま「放射思考」ともいい、マインドマップとは「放射思考マップ」のことだ。脳の働き方を相似的に表すから、脳にとって都合がいい、しっくり合うというわけだ。「働き方改革」をすぐにでもしなければならないのは脳である。
本質的なことが分かれば細かいルールは必要ない。なぜなら、脳以外にも放射型のサンプルは自然界にあふれている。もっとも手近なところでは「木」がそうだ。幹から枝へ、枝はさらに細かい枝へ、そして、たくさんの葉へとつながるこの展開イメージをメモやノートにもち込めばいい。
例として、アイデアをマインドマップにし、そこからひとつのロゴデザインを生み出す過程をみてみよう。
ニューロンのイメージ。そもそも、リスト形式など自然界には存在しない。脳という自然物になじまないのもうなずける。
マインドマップの実用例(1)
1まず、紙の中心に「これから何について思考するのか」を描く(セントラル・イメージ)。ちなみにマインドマップでは、言葉や絵(写真)を自由に配置していい。サンプルは「車中泊」をあつかうコンテンツ、そのロゴデザインを考えるマインドマップだ。
セントラル・イメージに直結する第1階層の枝(ブランチ)を出す。木にたとえれば、幹から出るもっとも太い枝、つまり太い概念だ。「車」、「人」、「目的」とする。そこからさらに「連想」される言葉や絵を第2階層、第3階層、と広げていく。同じ概念がかぶっても気にしない。
ざっと広げ終えたら、ロゴデザイン(視覚情報)への変換に役立ちそうな要素をピックアップする。ハンドルやタイヤの「円い」イメージは造形に使えそうだ。自由、景色といった心理や状況の変化も車中泊の重要な価値だろう。タイトルは「FREE DRIVE」にしよう。
延々と広げてもきりがないので、あらかた主立った側面が出そろったと感じたところで作業を終える。サンプルでは異なるブランチであっても関連性のあるワードには破線をつけた。ちなみに普段使いのマインドマップは紙に手書き、もっとラフなものだ。
2マインドマップでデザインの素材となる概念はしぼりこめた。あとは具体的な形や色をあたえていくだけだ。「円」のイメージから「FREE DRIVE」の「F」と「D」を木取りの要領でロゴタイプにする。中央に車の絵を配置し、コンテンツを表す直感的なアイコンにしよう。
3カラーバージョンも作る。魚眼のように広角の「F」と「D」には青空の色を、中央の車は沈む夕陽を背景に走るイメージの色を。マインドマップでちらばった言葉から思い浮かんだキャッチフレーズをつけたバージョンも作る。これで完成。
4メディアのヘッダーなどに反映した場合、こうなる。ロゴが効いているので、ありがちな「FREE DRIVE」というタイトルでもしっかりID(識別子)化できる。