熾想前野

熾想前野 或る流転

魯鈍と紊乱、虚無と頽廃――重低なるものを認めよ。死に至る生成と発展の妖光を見よ。

熾想前野

最近の仮説によれば――

ビッグバンによって、時間やら空間やら重力やらが生じ、次いでもっとも軽い原子、水素が生じたという。

水素は重力に反応し、核融合反応を起こす(恒星の誕生)。結合した水素原子からヘリウム原子が、ヘリウム原子の結合から炭素が生ずる。やがて鉄が生じ、核融合反応は終わり、恒星は超新星爆発(恒星の死)を迎える。超新星爆発により、合成された原子(炭素・鉄等)が宇宙にばら撒かれる。

つまり星は宇宙に点綴する核融合炉の工場であり、マテリアル(物質的材料、素材)の供給源である(工場の夜景に人が心奪われるのは、ある種の郷愁かもしれない)

こうして宇宙は巨億の星の生滅を繰り返し、物的世界をかたちづくってきた。その末端におかれたものが「生命」である。さらに、人間のような生命からは「知性」が生じた。

創造は生命へ、そして知性へと至る。知性は宇宙誕生から創造の筋書にあったようだ。被造物としての知性を超える創造であるから、神の御業は人知を超えるとは言い得て妙だ。

星は自らの内に鉄を生じ、死に至る。知性もまたより重きへ求心し死に至るのであろう。

絶え間なく全球を覆う。

相克と葛藤
猜疑と欺瞞
倨傲と昏惰

騒擾におどるパトス★1
矮小な自己慰安
偶像崇拝としての拝金

星も知性もより重きへと求心し、やがて死を遂げ、次々すぎすぎゆくのである。だから、知性の目的がよもや「正社員」であったり「老後資金2,000万円を貯めること」であろうはずはない、などと疑ってはならない。それは倨傲である。

恒星のなかには超新星爆発後、中性子星というのようにちっぽけな天体になるものがある。しかし、じつはティースプーン一杯が10億トンにもなるとてつもなく高密度の天体だ。最期は思念すら浮かび上がることのできない重低――かたく、重く、より物的になってゆくことは、ありふれた流れなのかもしれない。老歳の皺のように。

魯鈍と紊乱、虚無と頽廃――
重低なるものを認めよ。死に至る生成と発展の妖光を見よ。

悠久の時空から行き着いたこの重低、この創造。星影の幻にすがるものは群をなして電光に蝟集し、星の死を覚ったものは深海魚のごとく奇態に引きこもる。

宇宙における運動の或る段階の或る現象。創造の文脈の一字。爆ぜた星の屍肉。ゾンビ企業とは言い得て妙、我々は端からゾンビ★2のようなものである。

今此処から想い熾す。

圧縮点における相転移。瑞々しい死の開闢。――ありふれた流れ――。

★1 パトス――「pathos(希)」ここでは「単純な情操」の意。

★2 ゾンビ――ここでは生死の定義も曖昧な、不可知という名の呪術によって今此処に在るものの意。

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